インディーゲームをガツガツプレイしてはレビューを書き殴っていく企画、IndieGame100の第一作は、こちらのSplinteredを取り上げるぞ!
個人ゲーム開発者さんでネタを探している方から、インディーゲームにこれから触れてみようという方まで。
クリアした後だからこそ分かる、このゲームの面白さとウゥン!なポイントを伝えたい。
- レトロな手触りで引き付け、モダンな体験でのめりこませるデザイン
- ドラクエ式一本道RPG特有の「二周目をやるモチベーションが弱い」問題をランダム化で解決
- シナリオと戦術性は弱め。ビルドも意外性が薄い
じゃ、早速行ってみよう!
ゲームの概要
ジャンル:RPG
開発元: dotMake Studios
パブリッシャー: dotMake Studios
開発国: カナダ
UIやBGM、演出、主人公一人だけを操作するフロントビューのターン戦闘のほか、呪文名のワードチョイスなどにFC~SFCのドラクエ1オマージュをふんだんに効かせている。
一方で,本作独自のシステムである「世界のランダム化」により、ボスを倒すたびにレベルやアイテム・スキルが全てリセットされる他、ワールドマップもランダムに再生成された次の周回の世界が始まる。
周回を重ねるごとに新たな装備・新たなビルドの選択肢が増え、前周までのリアル知識を活かして試行錯誤を繰り返しながら物語の革新に迫っていく……というゲーム。
ちなみに筆者のプレイ時間はエンディングまで12時間59分だった。
レトロな手触り、モダンな体験
UIから伝わる、「古くて新しいものを作る」への熱量
まずはこのセーブデータ選択画面を見て欲しい。

8bit風のピコピコ音のBGMと黒地に白抜きの文字でレトロ感を出しつつ、雨がしとしとと降って水滴が跳ねている「枯れた」感じのある演出がモダンな雰囲気を醸し出している。もうこの時点で筆者はワクワクで胸がはちきれそうになった。

キャラメイクした直後にノータイムで始まるプロローグ。
UIがどこをどう見ても完全にSFCドラクエをオマージュしている。
が、改めて見て欲しい。HP,MP,経験値などの情報は、色付きのバーを使ってコンパクトに表示されている。
「ただレトロを形だけ真似た」のでなく、「レトロを下敷きに、現代のユーザーフレンドリーな仕様はしっかり取り込む」という方向性が見て取れる。

こちらがバトル画面だ。(キャプチャが下手で討伐後のスクショになってしまったが、戦闘中もこのUIなのは変わらない)
ひとつ上の画像と比べて、何か気づくことは無いだろうか?
そう、
- Lv, HP, MP, EXP, Gを表示する上段UI
- 行動選択肢を提示する右側UI
この二つのウィンドウが、移動したり表示が消えたりすることなく、ゲーム中全ての場面で常に表示され続けているのだ。
この発想はSFC期のレトロゲーでの定番であった、「ボタンを押して、いったんメニューUIに遷移してから操作する」という基本設計からは明らかに逸脱している。
「常に最適化された場所・表現でUIが表示され続ける or 邪魔になるときだけ消える」というUI設計は、完全に近年のゲームのUIのそれだ。

装備品の詳細画面のUIにも同様のことが言える。注目すべきは画面右下の「△じょうほう きりかえ」だ。
この操作で、装備品固有スキルの閲覧ができるのだが、
- ボタン操作の種類を極限まで絞り
- 一目で分かる位置に、テイストを崩さずに現代的なUIを配置する
という、センスが爆発している。

個人的に一番感動したのが、この「みちびき」機能だ。
フィールドにいる時ならいつでも、「次に何をやればいいのか」の大筋が表示される。
レトロゲーでありがちだった「メモを取りながらプレイしないと、次に何をしたらいいか忘れる問題」を、近年のRPGでよくあるクエストマーカーの仕組みを取り入れることで解決している。
このように、
「古くて良いものを、今のゲーマーにもちゃんと遊んでもらうにはどうするか?」という気配りが徹底されているのが、このゲームの第一の評価点だ。
成長して突破する喜びに特化したシステム設計

いきなり戦闘不能画面だが、画面上部のLvを見て欲しい。この時のLvはまだ1である。
スタート地点の城の兵士にも言われることだが、「勝てないと思ったら逃げてやり過ごす」ことが、このゲームでは非常に重要になる。(難易度の跳ね上がる最終周は特に、この方針が大原則)
一つのエリア内でも、進行状況やビルドによって「戦いやすい敵・戦いにくい敵」が明確に分かれているので、「まずは勝てる敵と戦って経験を積み、徐々に強い敵にもチャレンジしていく」という、レトロRPGの戦闘ならではのカタルシスを存分に味わえる戦闘となっている。

戦闘においては、装備品についているスキルを活かしていくことが重要になる。
全ての装備品にスキルが付属しており、装備した状態で戦闘に勝利することで装備品ごとに経験値が貯まり、上位のスキルがアンロックされていく。
このビルド要素がSplinteredの戦闘の核で、例えば最序盤から、
- 戦闘開始直後の攻撃がクリティカルになる確率を大幅に高めるダガー
- 1ターン目に敵を倒すと大幅に取得金額が増えるかわのよろい
を組み合わせ、「サクサク戦ってはザクザク儲ける」という、オイシイ組み合わせで戦っていける。
ビルドに関しては種類も多く、常に新しい特性のものが供給され続けるので悩みがいもある。
しかも、周回を重ねるごとに今までになかった特性を持つ装備がアンロックされていくので、周回ごとに違う戦闘スタイルを試せる。

また特定の敵グループを初回撃破していくことで、「さいのう」と呼ばれる、いわゆるパッシブスキルが解放されていく。単純に戦力を底上げするだけでなく、一部のさいのうは特定の装備と凄まじいシナジーを発揮し、難易度を変えうるほどのパワーを秘めている。
これもまた、戦う→パワーアップする→もっと強い敵と戦う……というループへの没入感を高めてくれる。
このように、意欲的かつ面白い要素がてんこもりなのだが……バランス面でちょっと惜しいところもあるのもまた事実。
これに関してはこのレビューの終わり際に後述する。
呪文名がドラクエテイストのローカライズ
呪文名が日本のゲーマーへのちょっとしたファンサービスとなっているところがプチ嬉しいポイント。
原語版だと”サイレンス”や””レッサーヒール”となっている呪文名が、オプションを弄ると……

“ダマラム”、”イヤル”とドラクエ風になる。

- 癒す→イヤル
- 眠らせる→スヤリム
- 暗闇を照らす→テラミシア
- 黙らて呪文を封じる→ダマラム
- 拠点に戻る→セレモドーラ
- 敵を寄せ付けない→ヨラーナ
と、いかにもなドラクエ感あるネーミングセンスなのが心憎い。
原語版の呪文名は「ライトニングスラッシュ」とかのかっこよさげな名前なので、ローカライズ班が本当に「リスペクト元を分かって」仕事をしてくれている感じが伝わってきた。
ランダマイザが生む試行錯誤体験
一本道RPGを周回ゲーとして成立させるためのランダム化
Splinteredではボスを倒すたびにレベルとアイテム所持・スキル習得状況がリセットされ、世界がランダムに再生成される。

二周目の世界が始まった直後の様子がこれ。見ての通り滅茶苦茶な世界が広がっている。
ランダムなのは町やダンジョンの配置だけではない。

呪文を覚える順番や習得レベルさえランダム化する。
さらにさらに、イベントアイテムの配置や宝箱の中身や店の品ぞろえ、敵の出現テーブルまでもがランダムに再生成される。
これにより、
- そこらへんの宝箱の中に、ラストダンジョンへの鍵がしれっと入っている
- スタート地点の城を出た瞬間にラストダンジョン相当の敵が出てきて、逃げ回りながら戦う羽目になる
- 「さいのう」の解禁条件と、それとシナジーのある装備品が売られている店の位置が噛み合い、序盤から無双
……と、およそ一本道RPGでは考えられない遊びを提供してくる。
そんな混沌とした世界を、前周までで積み重ねたリアル知識をもとに、最適な攻略ルートを編み出し、試行錯誤して突破する体験……いわばローグライト的な試行錯誤体験をドラクエ的一本道RPGに持ち込んだのがSplinteredの凄まじいところだ。
“え、じゃあ海のど真ん中にキーアイテムが置いてあって詰むこともあるってことォ!?”
“いきなり強ザコと戦わされたら詰まないか?”
“キーアイテムやさいのうを虱潰しに探すなんて、しんどい……”
と思われる読者諸氏もおられるだろうが、安心して欲しい。順を追って説明する。
クレバーな力業で”詰み”を排除する設計
まず、「到達不能なマスにキーアイテムが生成されて詰まないか?」問題。
これに関しては、滅茶苦茶力業で解決している。
ぶっちゃけると、この世界の陸地は大陸が一つor二つだけ。絶海の孤島なんてものはない。
進行不能の山岳地帯も、その地帯に山々が一切の隙間なく陸地に敷き詰められる形で生成されるので、そもそも進行不能マスが成立しないようになっているのだ。発想の勝利としか言いようがない。
「数学的に高度なアルゴリズムで詰みを解決している」というよりは、「そもそも面倒な事態が起こらない仕様にする」という、上流工程部分での解決をしているところは、インディーゲームならではの課題解決法だと思った。
次の「強ザコと戦わされたら詰むんじゃないか」問題に関しても、戦闘システムの面で大いに対策がされている。
このゲームの戦闘では、ごく一部のイベントを除き、絶対に主人公が敵より先に行動する。さらに、逃走確率も体感で90%を超えるくらいには高い。
そのため、強い敵だらけだろうが初手で逃げ続ければ普通に突破できてしまうのだ。時限式のイベントも特にないので、宝箱やさいのうのアンロックは、強くなってからまた再挑戦すればいい。
また、「消耗品系の宝箱はワールドマップとローカルマップを行き来すれば中身が復活する」仕様なので、最悪、そこら辺の宝箱で無限資金・アイテム稼ぎもやれなくはない。ここらへんも、かなり意図的に「詰まないように」作っておられる印象を受けた。
最後、「キーアイテムとさいのう探しがだるくないか」問題だが、これは「みちびき」と「地図」が解決してくれる。
一周目は進め方のガイドだった「みちびき」だが、二周目の世界からは「未回収のイベント・アイテムの数」と「それらがあるダンジョン名や町の名前一覧」を表示する機能へと変わる。
これにより、取りこぼしをいつでも確認できるようになる。
また、「マスターハンター」のイベントをクリアすると、地図上に敵の討伐状況が表示されるようになる。

このおかげで、「こうじょうしん のさいのうが欲しいけど、どこにあるかわからん!」と言う時も、マップを見れば探せるようになっている。
そして、これらすべての要素を成立させている根幹が、「一周が2~3時間で終わる」こと。
ボリュームが絞られているおかげで、サクッとクリアして次の周回に挑むことができる。
誰かが言った。
力こそパワー
だと。
このゲームの詰み防止策は、まさに「力業で仕様をスリムに畳み込む」ことで形作られている。
実際のプレイでの例

Splinteredのランダマイザが、キャラビルドにどう影響を与えるのかの実例を見てみよう。
この例は筆者の二周目の世界の記録だ。
最序盤のレベルアップで、あろうことか最大火力呪文のマホバーンをツモることができた。この呪文は、ラストダンジョン以外の敵ならワンパンで倒せてしまうほどの火力を誇る。
しかもスタート地点にほど近い街で「攻撃呪文でトドメを指した時に、消費MPがまるまる還元」される、きぬのがいとうも買えた。
そのため、「序盤から最強火力魔法でワンパンし、MPを回復して無限使用」という悪魔のようなムーブが可能になった。
Splinteredに感じた問題点
ここまで散々褒めちぎってきたが、問題点もやはりある。以下で触れておこう。
ストーリーがとにかく薄い
特に第一章の世界で顕著なのだが、Splinteredのストーリーにおいては「問題提起」が極めて貧弱だ。
どういうことかというと、ストーリーは基本的に三幕構成といって、次のように三つのフェーズで作ってあると読者に受け入れやすくなる。
- 第一幕 問題提起 主人公はどんな状況に置かれていて、何が克服すべき問題なのかの提示
- 第二幕 本筋 主人公が問題解決のためにがんばる
- 第三幕 結末 主人公が報われる or うまくいかず、問題がさらに深刻になる
Splinteredのストーリーテリングでは、この第一幕が極端に薄い。
なんの脈絡もなく、「次は○○山へ行ってアイテムを取ってこい」、「次は△△を倒せ」「次は××に行け」というみちびきが提示されるだけだ。
“なんで○○山へ行かなきゃならないの?”
“なんで△△を倒さなきゃいけないの?”
“なんで唐突に××の名前が出たの?”
という疑問に対する答えは、二行くらいの説明で済まされるか、そもそも説明されない。
そのため、「なんで俺は今コイツとたたかってるんだ?」というのがよくわからないまま戦うことになる場面が多々ある。
「二周目以降の世界でシナリオを破綻させないため、やむなし」と言われれば、まぁそうだろうなとは思うが……
少なくとも、初代ドラクエ的な王道シナリオを期待すると確実にガッカリすると思う。
バトルの戦術性が薄い
1対1のターン戦闘の宿命なのだが、
攻撃を連打する→HPが減ったら回復する→攻撃を連打する→……
のワンパターンな戦闘がSplinteredの基本になる。
変化があったとしても、デバフ系のじゅもんを戦闘開始とともに使うくらいで、そのあとはテンプレ通りの戦闘だ。
ただ、これだけランダム性の高い作品で戦闘が複雑だと、ゲームバランスが崩壊しかねないので、これも仕方ない気はする。
ビルド自由度が低い
多種多様な装備こそ準備してあるものの、「装備の説明文を見た瞬間に強いか弱いか分かる」「見た瞬間にコンボが思いつく」ような特性がほとんど。
そのため、『予想しなかった組み合わせが滅茶苦茶強い!!』という脳汁沸騰な瞬間を求めるビルド好きにはあまり向かない。ネタバレにならないように書くと、『大抵みんな似たような構成に収斂すると思う』と言う感じ。
正直、これに関してはもうちょっと遊びの幅があると完璧だったと思う。
ランダム性が高いからこそ、「運を味方につけた当たりビルド」を自分なりに構築できた時の喜びは大きいはずなので、ゲームのコンセプトとも乖離はしてない……はず。
総括:レトロな雰囲気の中に、ランダム性から来る楽しさと、ユーザーフレンドリーな気配りと遊び心を散りばめた、リプレイ性の高いRPG
いかがだっただろうか。
細かな惜しい部分はあるものの、
まるでローグライトのようなリプレイ性のある、ドラクエ的RPG
というコンセプトと大筋の完成度は唯一無二の作品だと思う。
プレイを考えている人、創作のアイディアに困ってた人の参考になれば幸い。
*次回予告*
次回のIndieGame100では、
-レトロゲームの手応えとバランスを追求するデザイン工房-さんの
STRANGER SAGA -流れ者バッチとイスキエルドの野望-
をレビュー予定です。
現在絶賛プレイ中!
プレイ中の様子は筆者のXにて#IndieGame100 のハッシュタグで呟いてます。
ご興味がおありでしたら、是非フォローをお願い致します!
では、良きゲーマーライフを!!
最後までお読み頂きありがとうございました!
